電気を送るのもワイヤレス 三菱重工が実験成功
三菱重工業は12日、電気を無線で送る実験に成功したと発表した。10キロワットの電力をマイクロ波に変換し、500メートル先に届けることができた。電力規模は最大で、距離も最長となる。交通インフラや洋上風力発電など、活用が見込まれる分野は多く、「無線送電」の5年後の実用化をめざす。夢の「宇宙太陽光発電」への一歩としても期待が膨らむ。
神戸港に面した三菱重工の神戸造船所(神戸市)。岸壁沿いに2枚の大型パネルが向かい合って設置された。高さ13メートル、幅8メートルで、その距離は500メートル。ひとつは送電パネル、もう一方は受電パネルだ。人の目には見えないが電力が空間を走り、受電パネルにつないだランプが点灯した。
三菱重工が2月24日に実施した無線送電の実証試験の風景だ。電線がなくても電気を送れるのがミソ。500メートルの送電は従来の10倍近い。三菱重工は「幅広く産業用に応用する」(宇宙利用推進室の松本浩明室長)。
例えば電動カートの充電では、ケーブルをつなぐといったわずらわしさがなくなる。洋上風力で得た電気を陸上に送ったり、災害発生時に停電して孤立した集落に電気を送ったりということも想定する。
様々なものをネットにつなぐインターネット・オブ・シングス(IoT)時代の本格到来で、無線送電には経済産業省も注目している。特にインフラ管理への関心は高い。老朽化などトンネル内の状況を把握するセンサーの電源を確保するため送電機をつけた車を走らせるアイデアを持つ。経産省は「一つ一つに電源を設置するとコストがかかる。無線送電の技術は産業応用の幅が広い」と期待する。
無線送電のカギとなるのが制御技術で、三菱重工は狙った場所に電気を送る高い精度にもメドをつけた。軸となるマイクロ波についても、実験では一般の電子レンジと同様の発振器を利用するなどコストを抑えた。
ただ、実用化にはさらにコストを現状の半分程度にする必要があるとみている。三菱重工は「5年後の実用化をめざす」(宇宙利用推進室の安間健一主席)と、早期の立ち上げに自信をみせる。多くの社会インフラ関連ビジネスを三菱重工は手掛けており、無線送電は事業拡充の大きな武器となりそうだ。
目先の用途の次に、壮大な計画として期待が膨らむのが無線送電技術を活用した宇宙太陽光発電だ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)や三菱重工など民間が共同で取り組む。宇宙空間に建設した2キロ四方のパネルで太陽光を受けて発電し、地上の受電施設に送る。天候に左右されず常に発電でき、経産省は最大で原子力発電所1基分に相当する100万キロワットの発電を見込んでいる。
「2万5千トンのパネルを運ぶのにロケットを約2500回打ち上げる必要がある」「単純計算で総費用は25兆円」――。現時点ではコスト面の課題が大きいが、経産省などは送電機の小型軽量化に取り組み、2030年代後半までに宇宙空間での実験をめざす。
無線送電は米中などでも研究開発されているが、技術力では日本が大きく先行しているという。エネルギーの確保、活用方法は産業活性化の重要ポイントで、無線送電に注目が集まっている。(西岡貴司、矢野摂士)
[2015/3/13 日本経済新聞 電子版]
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タグ:無線送電
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